秋の日記

いつだって秋。

アンデルセンに捧ぐ

アンデルセンに捧ぐ

by Aki(秋)

 

 

 「マッチいりませんか。マッチいりませんか」

 少女の声がコペンハーゲンの街に響く。振り向く人は誰もいない。みな見て見ぬ振りをして少女の脇を歩いていく。

 「マッチいりませんか。マッチいりませんか」

 1人の男が立ち止まる。男のヒゲはサンタクロースより長くて、サンタクロースよりずっと汚い。男がマッチを1つくれないか、と言う。

 「3クローネです」

 男は少女に唾を吐きかける。

「ふざけんじゃねえ。こっちはタバコの火がほしいだけだってのに。こんなもんに、3クローネなんて払ってたら3日と持たずに飢え死にしちまうよ」

 「だって、私は3日どころか今日飢え死にしそうなのよ」

少女はもはや後先のないものの勇気を持って男に言い返す。

 「死にそうだって?俺だって死にそうさ。毎日毎日な。だからタバコで肺を膨らませて、酒で腹を膨らませてんだ」

 少女は男を哀れんで一本だけマッチを擦ってやった。男はタバコに火を点けて、うまそうに煙を体に入れる。空っぽの体に空っぽの煙が入っていく。

 「はあ。生きてるって感じがするよ」男は言う。

 少女が言う。「じゃあ、私にも吸わせてよ」

 「ガキには早え」

 「いいから吸わせて」

 男はその場でもう一本タバコを巻き、少女に渡す。少女はそれに自分で火を点ける。

 「ゲホッゲホッ」

 男は笑う。

 「こんな不味いものよくも吸わせたわね。」

 男はさらに笑う。

 「まあ、くわえとけ。じきに美味くなる。」

 2人の手足は赤黒い。霜焼けだらけな上に、雪の上にシミを作りそうなくらい汚れてる。

 大きな手と小さな手が規則正しくタバコとマッチを交換する。

 巻いて、擦って、点けて、吸って。

 紫煙を照らす街灯が徐々に消えていく。北欧の夜は暗くて寒い。

 そのうち、タバコの葉がなくなる。

 「じゃあな。」

 男は立ち去ろうとする。

 「待って」

 少女はマッチを擦る。マッチはまだあったのだ。

 小さな灯りが2人の顔を照らす。男の顔は見ていられないくらい醜い。少女の顔も醜い。

 2人はお互いの醜さに小さく笑う。

 「どうしようか、私たち」

 「どうしようもないだろ」

 男はまた去ろうとする。

 「待って」少女は言う。

 男は振り返らない。

 「待って。ひとりにしないで。」

 男は振り返る。

 「うるせえ!ガキが!俺にてめえの面倒が見れると思うか!食い扶持が欲しけりゃ牢屋にでも行きな!」

 少女は静かに男を見つめ、自分の服を脱いでいく。

 「誰か助けてー!強姦よ!強姦よ!」

 少女の声が街中にに響き渡る。家々の明かりがつき野次馬に囲まれ、夜景が駆けつける。男はすぐに捕まってしまう。男は首をつかまれて、ずるずると引きづられていく。

 「くそったれ!」

 「食い扶持が見つかってよかったね」

 野次馬は被害者が小汚い少女だとわかるとすぐに帰っていく。

 警官の情けから5クローナ紙幣をもらって家に返された少女は、父にしこたま怒られた。

 父は怒るとよく殴る。殴らないだけ男の方がマシだったかな、と少女は思う。

 5クローナは父に全部取られてしまった。

 明日もマッチを売るのだろう。

 

 

 この物語をアンデルセンに捧ぐ。

 

 

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急に短編書いてすみません。急遽、夜中に思い立ち、過去に思いつきで書いたものをリメイクして載せました。

 

おやすみなさい。